いつだって、必要されていたかった。
いつまでも、必要されていたかった。

―― Ein einsamer Vogel

あの日。ハイダにバカンスに出かけて、わけが分からないうちに相手もその目的さえ分からないままに襲撃されて。それからいろいろあって。
バンデーンに捕まったのが、どうにか助けられて。
そうしてなんだかずいぶん久しぶりに再会した幼馴染は、たくましくなっていた。生まれたときからずっとずっと知っていた幼馴染は、ほんの少し見ない間に。
――信じられないくらい成長していた。

◇◆◇◆◇◆

「フェイト、朝だよご飯のしたくできたからそろそろ起き、」
「……ああ、ソフィアおはよう。みんなは?」
「…………アルベルさん以外はもうすぐだと思う……」

たとえば。
フェイトは朝に弱かったはずなのに、いつまでもうだうだベッドから出てこなかったのに。体質ではなくて、単なる面倒臭がりのせいかもしれなかったけれど、「ソフィアの知っているフェイト」はそうだったのに。
再会してからずっと、最近ではずっと。朝、食事の用意ができたからと起こしに行けば、ちゃんと自力で起きていて、今日は身支度まであらかた終わったところで。ベッド脇で残りの身支度をしながら、優しくさわやかに微笑んでくれて。
「起こしにいかないといつまでも寝ている」フェイトは、嘘ではなかったと思う。誰かに起こされるまでぼんやり布団に寝ているフェイトは、嘘ではないと思う。そうやってだらしがないふりをして、あれこれ世話を焼くソフィアに甘えていたのかもしれない。それはそれで腹立たしいけれど、何が本当か分からないけれど。
けれどそれが、今では。
……手がかからなくなったと、喜びたい。フェイトに邪魔されていた自分の時間が増えたのだと、思いたい。「幼馴染」は動かせないけれど、「お母さん」ではなくて「女の子」として見られるようになるかもしれないと、そうやって期待したいのに。
たかが自力で起きる、たとえばそんな些細なことが、それがなんだか、
――なんだか、淋しくて。

◇◆◇◆◇◆

「……ソフィア?」
黙ったまま動きを止めた彼女に、フェイトが首をかしげた。肘のサポータ他もろもろ、それをつければ多分支度は全部で――剣を腰に下げれば支度はきっと全部で。じゃあご飯にしようと笑っても動こうとしないソフィアに、彼は不思議そうな顔をする。
――別人みたいに成長したくせに、なぜそういったところは以前のままなのだろう。
自分でも分かっている。どうでもいい些細なことばかりがどうしても淋しくて、哀しくて。違うところを見つけては、同じところを見つけては。
淋しくて、ソフィアはきゅっと唇をかむ。
「……どうしたんだよ、ソフィア?」
「フェイト、あのね。……ちょっと、訊きたいことがあるんだけど」
「ん?」

シミュレータゲームなどまるで比べものにならないくらい、きっと切実な理由で剣を握る腕は前よりも絶対に筋肉がついた。あちこちへ行ったり来たりで屋内にこもっていられるはずがないから、当然陽に焼けた。背が伸びたような気がするのは、事実なのかそれとも存在感? が増したからだろうか。
幼馴染のソフィアでなくても、どんな人ごみでも。今のフェイトなら、きっとどこにいても誰もが見つけることができる。

元から格好良いフェイトが、そうやってどんどん魅力的になるのは嬉しい。幼馴染として、一番身近な女の子として、誇らしい。親同士が知り合いだったからという偶然のきっかけで、そのままずるずる付き合いが続いているだけだと思っても、自分の努力で手に入れた関係でなくても。
魅力的なフェイトを見るのは、
――けれど。

「……あのね……、ずっと、疑問だったんだ」
「何が……?」
「でも、なんだか怖くて、訊けなかったんだけど、あの、……フェイト?
――フェイトにとって、わたしは、」
「?」
きょとんとした顔。きっとハイダのあのころと今の自分がどれだけ違うのか、一番気付いていない人。自分の魅力を、自分の影響力を。誰よりも、分かっていない人。
「わたしは、」
たった一言を口にすることさえ、こうして途方もない勇気を総動員しなくてはならないソフィアを。
「……フェ、フェイトにとって、わたしは、今のわたしは何?」
――わたしを、一体どういう目で見ていますか?

◇◆◇◆◇◆

いつだって、必要されていたかった。
いつまでも、必要されていたかった。
必要されている間は、ひとりではないから。ひとりぼっちでいなくていいから。
だから、必要としてほしかった。
できるなら「女の子」であってほしいけれど、「家政婦」扱いだってかまわない。足手まといの道化だって、おばかな愛玩動物と同列だって、それで必要とされるならそれはそれで良いと思う。
捕まって、監禁されて、ソフィアのトラウマはそんなところにも影響していて。
だから、とにかく必要とされたかった。
――ここにいても良いよ、と、一言がほしかった。

「ねえ、フェイト……」
――わたしは、あなたの役に立てますか。
――あなたに必要とされるだけの、価値がありますか。
困ったフェイトの顔がにじんで、無茶な疑問をぶつける自分がいっそ哀れで、
ただ自力で起きた、たったそれだけを、とがめる自分がいっそう情けなくて。
「フェイトが好きだから、」
それでも言葉は途切れなくて。
「フェイトに見捨てられたくない……」
――ひとりになるのは、もうイヤです。

ぽろり、涙の粒がこぼれ落ちる。
ぽろぽろぽろ、次々落ちていく涙は、
――卑怯だと、分かっている。

―― End ――
2005/09/16UP
フェイト×ソフィア
OFP
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Ein einsamer Vogel
[最終修正 - 2024/06/25-10:13]